青べか物語
以前住んでいた行徳という町に行ってきました。
行く前に、古本屋で買った山本周五郎の「青べか物語」を初めて読んでみました。
青べかとは、小さな平底舟でアサリ・海苔の収穫に用いる
ため船底が薄くペコペコすることから、べか船 主人公が無理やり買わされた
おんぼろのそれが青い色だったことから 青べか。
その舞台となった浦安市と行徳はほとんど同じような成り立ちで、当然言葉も同じ
隣り合った町です。
今では、浦安といえばディズニーランドですが昔は貧しい漁師町、行徳も
おそらく同じだったでしょう。
東西線が通り、東京に通勤するにはとても便利で、しかも土地が安かったため
あっという間に家やマンションが建ち、埋立地が広がり居住者が変化したようです。
ですが、もともとの住人は驚くほど青べか物語に出てくる人々そのものでした。
訛りがきつく、聞き取れないことがしばしばで、おばさんはおじさんの
ようにはなし、若い女性たちもそれは同じでした。
田舎から出てきた私は、その粗暴な振る舞いに本当に驚きました。
山本周五郎と同じように。
青べか物語を読むと、それは昭和初期の話だったのに、それから60年以上
たったあのころでも、暮らしぶりは激変しても、こころはさほど変わらなかった。
山本周五郎が3年間過ごして観察したあの土地の上流で、私は12年過ごした。
作者は逃げるように浦安をあとにした。
彼は30年後、懐かしく青春の日々を送った土地を尋ねたようですが
私の中の行徳は、懐かしい思い出とつながるものはないことに改めて気づきました。